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第79回 『ものを考える人たち』 |
友人に連れて行って貰って、三泊四日のソウル旅行をして来た。 羽田を離陸した大韓航空の747は、二時間足らずで金浦(きんぽ)空港に着くのだから、韓国はほんのすぐそば、と言うくらい近い。成田なんかに空港を造って、新東京国際空港なんて言ったのは、何処の馬鹿野郎だ。 俺は歳を取ってとても執念深くなったから、何かある度に、それと関係のある忌々しいことや不快なことを、次々と思い出す。 大韓航空の機内で、とても綺麗なスチュワデスが、機内食の旨いビビンバを食べさせてくれると、俺は、その親切で優しいことから、四十年前に成城大学の学生だった李錦順を思い出してニッコリし、そして二時間足らずでソウル郊外の金浦空港に着くと今度はたちまち、千葉の片田舎にある成田空港を、楽しくではなく、とても不快に思い出して顔を顰めた。 何か刺激がある度に、いろいろ敏感に反応して思い出すのは、脳が老化していない証で結構なことだと思うのだが、内容は不快なことがほとんどだから、俺の顔はだんだん福田康夫や北の湖に似て来る。 脳にコンデンサーかブースターでも、ちょっと付けて、楽しくて愉快なことしか思い出さないように出来ないものか。 俺が思い出してニッコリした李錦順だって、たった一度チークダンスを踊ったことがあるだけで、他に輝かしい想い出も、芳しい記憶も何もない。 俺のそんな思い出はみんな嘘か、そうでもなければ百回言って本当になったことばかりだ。 三泊四日で何も分かるわけはないのだが、それでも久し振りで行ったソウルは、と言うより韓国と韓国人は素晴らしかった。女も男も、老いも若きもみんな、溌剌と生きている。額に汗して懸命に働いている。 |
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