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第93回 『身体に悪いTVーCM』 |
亡父安部正夫は、大好きだったナイター中継しか、民放テレビを見なかった。 三十歳だった俺が、どんなに勧めても頑として民放テレビを見なかったのは、CMが嫌いだったからだ。ナイター中継でもCMになると、画面から目を逸らして、あらぬ方を見詰めていたのが懐かしい。 父は民主的ではなく、どんなことにも一方的な“明治の男”だったが、民放テレビのアナウンサーのわざとらしい嬌声と、それにCMから目を逸らしたことは、“流石は我が親爺”と俺は思う。 七十一歳になった俺は、大嫌いなCMになると目をあらぬ方に向けるだけではなく、音が聞こえないように両手で耳を塞ぐ。 宮浮おいとアヒルや、上戸彩と白い犬だと、俺は黙って十五秒間見詰めているのだから、親爺のようにCMはどれもというわけでもない。 タダの民放にCMがあるのは、国民を全く守ろうとしない日本国が税金を徴収するのと同じで、仕方のないことだと思っている。 しかし、受益者でもなければ評論家でもない俺だが、TV-CMに関しては主張が明確なのだ。 俺の好きな宮浮おいと上戸彩、それに蒼井優のCMは水虫薬と痔の薬以外なら、なんでもドンドンやれ!爺婆とオバさんのCMは、ヤルナとまでは言わないが、俺がまだ寝ている早朝だけに限定しろ。 保険と宝くじのCMは禁止して、これまでに出演した俳優は全員、詐欺幇助罪で検挙して、執行猶予付きでいいから有罪判決を喰らわせろ。お笑いの志村某と竹中某は、CMを見た子供の顔が惨めに歪むから、広告代理店はキックバック欲しさに起用してはいけない。 とにかくCMは、美しいか楽しいか可笑しくなければ、作ってはいけないんだ。目を瞑り両手で耳を押さえても、時々不意を突かれて間に合わないことがある。 |
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