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第98回 『見栄と気取り』 |
“見栄”と“気取り”という言葉に、みんなマイナスイメージを持っているようだが、俺はそうじゃない。見栄も気取りも、それに好奇心もスケベ心もなくなったら、それはもうただの老い耄れだ。 そんな汐垂れた爺いになる前に、俺は宮浮おいに惚れられたいと、密かに願っている。なぜ公明正大にではなく、密かになのか。それは女房殿に勘付かれると、不機嫌になられるからだ。 狭い家に鼻面を突き合わせて住んでいる相棒に、まだ会ったこともない娘にもし惚れられたら、なんてことで不機嫌になられたら、サブプライムローンで破産するより非道い。 タラとかレバなんて話は、豚に喰われろ。宮浮おいでも滝川クリステルでも、それに蒼井優でも蒼井そらでも惚れられて、一度じゃ後を引いてツラいから二回ムニャムニャすれば、不機嫌になられても納得が行く。 あ、何を書いているんだ。見栄と気取りの大切なことを書こうと俺はしてたんだ。 明日は月に一度の、掛かり付け医の大庭先生に診ていただく日だ。“酔っ払って喋っていると、時々何を喋っていたのか、途中で分からなくなります。原稿もタイトルを決めて書き出したのに、すぐテーマから逸れてあらぬ方へ行ってしまうことが再三で、実は昨夜も原稿を書いていてそうなりました。これって、もしや、いえ多分、ひょっとしてボケですかね”と、正直に俺は伺ってみる。 聞くは一時の恥、聞かざるは死ぬまで続くボケなのだ。 最初の“見栄”と“気取り”に戻る。この二つがあるから、俺たち爺いでも豚じゃなくて人間なんだ。毎朝、歯を磨き、外に出る前に靴を拭く、犬も猫もいない。 |
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